第5章
いけないこと
何かがおかしいと感じるのには、理由がある。
「行こう!」スマッジは急に元気を取り戻し、家へ向かって走り出した。ビスケットも鼻をひくひくさせながら横を走る。数歩進むたび、ビスケットは後ろの寒さと暗闇を振り返った。あんな場所にいるより、あたたかそうな家のほうがいい。いったい何が起きるというのだろう?
近くで見ると、家はさらにすてきだった。窓は二つのきれいな四角形に光り、屋根は、スマッジが思わず見とれるほど気持ちのよい正確な角度で傾いていた。何もかもが居心地よく、歓迎してくれているようで……それでいて、だれかが細かく考えて描いた絵のように、妙に整いすぎていた。
一見したところ、変わったものは何もない。ただ、家のあちこちに細いひもや小さなロープがかけられていた。きれいな輪、整った結び目、職人が作ったような編みひも。なぜかはわからなかったが、それらのせいで家全体が……きっちりして見えた。
「当たってくだけろだ」スマッジはそう言って、ドアをたたいた。
返事はない。
今度はもっと強くたたいた。それでも何も聞こえない。だれもいないようだった。
ふたりが立っているあいだも、風は木々の間でうなり続けた。ビスケットは小さく鳴き、右の前足から左の前足へ体重を移した。スマッジのおなかは、こんなときに限って、ぐうう、と役に立たない音を立てた。
雨は降り続けた。風も吹き続けた。外に立っていたい気持ちだけは、まったく続かなかった。
スマッジは慎重に選択肢を考えた。ひとつを除き、どれを選んでも寒いままだった。
ビスケットの顔には、はっきり書いてあった。あたたかそうだし、魔法っぽいし、今はそれだけわかれば十分。
スマッジは希望をこめて深く息を吸い、取っ手に手をかけた。
ギィィィィ……。
ドアは、ふたりを待っていたかのように、ひとりでに、ゆっくりとなめらかに開いた。
スマッジとビスケットは顔を見合わせた。とても特別な顔だった。「これは、ものすごく悪い考えかもしれない」と言う顔。
同時に、「でも寒いし、おなかはすいたし、サンドイッチもないし……」と言う顔でもあった。
スマッジの胸に小さな不安がひらりと動いた。けれど、戸口から流れ出すあたたかな空気が、やわらかな毛布のように体を包んだ。それに、ほんのかすかに、甘いもののにおいがした。
入ってはいけない。ふたりともわかっていた。本当に、入ってはいけない……それでも、入った。
